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判例詳細

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昭和電極じん肺、肺ガン事件

(1)じん肺とは

 ほこりや異物を吸い込むと本来気管支や気道がそれをとらえて外部へ排出するのが人の体の防御機能と言われています。  ところが大量の粉塵を吸い込むと生体防衛機能を越えてついに肺のなかに粉塵が溜まって来ます。とりわけ極めて小さい微粒子と言われるような粉塵は肺の奧へ侵入します。そして肺が次第に粉塵に固められ、柔軟な収縮も出来なく肺の働きが悪くやがて呼吸が困難になり、体の機能が弱まっていく症状をじん肺と言います。これは肺が元通りにならない不治の病なのです。近代以前も金山銅山の鉱夫に「よろけ」という病気が発症していたという記録が有りますが、鉱山の粉塵を吸った鉱夫に発生したじん肺の症状のことを言っているのです。
 近年トンネルや炭坑、そして造船等の現場で長く粉塵に曝された労働者のじん肺の企業責任や国の責任を追及するじん肺訴訟があちこちで行われていますが、じん肺の罹患について企業の責任を問うことが行われるようになったのは、この30年ほどの事です。
 田中、高橋は、日本で最初にじん肺の企業責任を追及すると言って良い昭和電極じん肺訴訟に取り組みました。

(2)住宅都市西宮市で

 教育文化都市西宮の南東地域の海と武庫川に近いところに昭和電極という電極製造工場が操業していました。製造する黒鉛電極は、鉄鋼の平炉に使用し銑鉄を溶解する作業に使用されるのです。電極製造には炭素を微粒に砕き、タールピッチを触媒として電極に固め、製品としますので、工場からはタール・ピッチを含んだ炭素の微粒子が充満し、働いている人は全身真っ黒な粉塵だらけになります。そして工場の周辺の空気を汚し洗濯物、植栽、建物を汚しました。

(3)悲惨な当事者たち

 このような環境で長く働かされた人達は、発ガン物質のタールピッチで皮膚が黒くなり皮膚癌などになり、また肺には炭素粉塵が溜まり、呼吸が困難になるじん肺に侵される人が多く発生しました。とりわけ、炭坑閉鎖で、汚い職場でもやむを得をえないと電極工場で働くようになった人も多くいました。しかも昭和電極は周辺住民や自治体の公害規制を求める動きを避けるため、福知山市への工場移転を計画し、移転前の西宮の工場の集塵機など環境対策をサボりましたので、働く人達は全く悲惨な状態に追いやられました。

(4)ついに訴訟

 そして昭和電極は、工場を移転することのみに力を入れ、西宮工場の閉鎖で病気や健康を損なった人達を放置し、切り捨てたなかで、タールピッチを吸引し肺ガンにかかった人が死亡したのをきっかけに、労働組合の後押しもあり、じん肺、肺ガン、皮膚障害等昭和電極西宮工場で働き、それらの病気になった人達が、損害賠償訴訟を起こしました。
 黒鉛電極工場でのじん肺、肺ガン、皮膚障害罹患による損害賠償の裁判は例がなくまったくの手探りで裁判を続けました。幸い長年じん肺問題の治療や研究をして来られた医師の協力をえることが出来、じん肺には吸い込んだ粉塵の種類によって珪肺、黒鉛肺、アスベスト肺、炭肺、アルミ肺等々様々なものが有ることも知ることが出来ました。しかしそれでも例のない大量の原告を抱えて訴訟で途中じん肺の苦しみで自殺する原告も現れるなど10年近い歳月をかけ、ようやく患者となった働く人の勝訴となりました。

(5)たたかわなければ放置

 既にこの時期にもアスベストによるじん肺は肺ガンになる確率が極めて高く危険きわまりないと医師や研究者は指摘していました。しかしアスベストはどんどん生産され学校を含めこの国の隅々まで行き渡って、近年のアスベストによる工場周辺住民の中皮腫瘍被害が社会問題となっています。
 健康や命は、果敢に闘うことなく守る事が出来ないと実感させるものです。 
文責:髙橋 敬

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