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明石歩道橋事件起訴相当議決の要旨より抜粋

議決の趣旨
本件不起訴処分は,不当であり,起訴を相当とする。

議決の理由 1 被疑者の過失について

(1)雑踏事故発生に関する予見可能性について



 本件夏まつりは,平成12年12月31日から平成13年1月1日にかけて大蔵海岸で行われたカウントダウンイベントの3倍程度の約15万人という多数の参集者が予想されていた。
 夏まつりの会場である大蔵海岸と最寄り駅であるJR朝霧駅とを繋ぐ唯一の通路が,本件歩道橋である事,その他周辺地理を一見すれば,本件歩道橋内にて雑踏事故の発生する危険性は当然に予測し得たはずである。  また,カウントダウンイベント時も,本件歩道橋付近で110番通報がある等危険な混雑を生じていたが,被疑者はその際にも明石警察署副署長として関与しており,その約3倍の参集者が予想される本件夏まつりにおいても本件歩道橋付近で雑踏事故が発生する危険性を予測し,または,容易に予測し得たのである。

(2)警備計画段階での注意義務違反について



 被疑者は,上記の通り,本件夏まつりにおいて本件歩道橋内にて雑踏事故が起こりうることを十分予測していた。
 雑踏事故においては,事前計画が極めて重要であり,被疑者は,夏まつり署警備本部副本部長,総括指揮班指揮官として,十分な雑踏警備計画の策定,雑踏警備計画が不十分な場合の是正,主催者側への適切な指導,助言,雑踏警備計画の配下警察官への周知徹底を行うべき義務を負っていた。
 しかるに,被疑者は,夏まつりの雑踏警備計画の策定過程に深く関わり,修正・是正等をする権限,機会を有していながら,部隊配置図・導線図・警備区域内の実施要領等の必要な資料等が添付されず,警備担当警察官の人数も極めて少なく,歩道橋における危険を想定し,実際に危険を把握した場合の具体的措置等,本件夏まつりにおける雑踏警備計画として必要不可欠な事項すら検討していない不十分な雑踏警備計画の内容を十分理解把握をせずに,是正する事もしなかったのであり,被疑者の過失は優に認められる。
 また,被疑者には,主催者側への指導・助言も不十分であり,夜店に関する不適切な指示を是正できなかった事実,部隊員への周知徹底もできていないという事実も認定でき,結局は,本件事故に繋がる過失と評価できる。

(3)夏まつり当日の注意義務違反について



 被疑者は,上記の通り,雑踏警備計画の段階から夏まつりで歩道橋内で雑踏事故が起こる可能性を認識していた。
 そして,夏まつり当日においても,署本部において無線,モニターにて,歩道橋内の状況を把握していたし,モニター等の監視,配下警察官から報告を受ければ,容易に把握し得た。
 被疑者は,夏まつり署警備本部副本部長,総括指揮班指揮官として,夏まつりにおける参集者の動き,特に,歩道橋内の状況を適切に把握し,雑踏事故を防止するために,適時,配下警察官を動員して,参集者の分断・う回路への誘導等,歩道橋への流入規制等を実施する義務を負っていた。
 しかるに,被疑者は,モニター等の監視や現場警察官から歩道橋内の情報収集を行わなかったことで,歩道橋内の状況を適宜把握せず,適切な時期に分断措置等をとらなかったのであり,被疑者の過失は,優に認められる。

(4)過失の判断時期について



 被疑者には,雑踏警備計画段階及び当日における具体的な指示等に関して優に過失が認定できる。検察官は,被疑者の直属の部下である担当警察官らの過失に関する構成をあえて事故当日の過失に限定しているが,限定する必要性は全くないし,限定する理由を理解できない。担当警察官らの刑事事件における判決において,検察官が当日の過失に限定した訴因を構成していることに関して問題点が指摘されていることを十分考慮すべきである。

2 公訴時効について

 検察官は,被疑者については,平成18年7月27日が公訴時効満了日であり,公訴時効が成立している旨主張している。
 しかし,被疑者の直属の部下である担当警察官については,現在も上告審に係属中であり,判決は確定していない以上,被疑者と担当警察官が,刑事訴訟法第254条2項に規定される「共犯」であれば,公訴時効は停止していることになる。そこで,公訴時効の停止における「共犯」の意義が問題となるが,刑事訴訟法上,定義規定がなく,解釈に委ねられ,解釈上,「共犯」の意義については,刑法で規定される厳密な意味での共犯に限定される訳ではなく,公訴時効の停止の趣旨に合致する範囲まで,一定程度の広がりを持つ。
 本件において,これほど重大で悲惨な事故が発生したのは,主催者側や現場の指揮官等それぞれの過失が競合した結果である。公訴時効,公訴時効の停止の趣旨からして,過失が競合する場合には,無制限に,公訴時効の停止における「共犯」になるとは考えにくい。しかし,過失が競合する者同士の関係,過失の内容等からして,競合する過失の関係が,立場は違えど,実質的に相互利用・補充する関係にあると評価できるような場合等にも,公訴時効の停止における「共犯」と解釈できないかについては,判例や明示する文献もなく,検察審査会でも熟慮した点である。
 検察審査会では,公訴時効及び時効停止の趣旨を尊重し,単なる管理・監督責任以上に,本件のような明石警察署という同一,上命下服の小規模組織内において,被疑者と部下とのような直属の指揮監督下にある者同士の過失が競合した場合には,立場は違えど,実質的には,相互利用・補充している共犯関係と評価でき,公訴時効の停止における「共犯」といえると判断した。
 特に,被疑者は,警備計画段階では,部下の代わりに明石市との第3回目の検討会に参加するなど,共同して,不十分な雑踏警備計画書を作成しており,「過失の共同正犯」に極めて近い関係にあったといえるし,また,当日においても,現場での指示を部下が行い,署本部において,大局的な見地から直接指示をするのが被疑者らであるとの役割分担であったと考えれば,立場は違えど,「共犯」と考えても何ら不自然とは言えない。

3 最後に

 最高責任者を補佐する者であり,本件夏まつりにおいて総括指揮班指揮官として最も重要な立場にあった被疑者が責任を追及されないというのは,国民感情として納得できない。
 本件は,11名の尊い命を奪い,183名に傷害を負わせた未曾有の事故である。
 本件雑踏事故の根本原因を究明し,二度とこのような悲惨な事故を起こさないためにも,被疑者の過失の有無を公開の場である裁判において,明らかにし,その責任の所在を明確にすべきであると考え,前記趣旨のとおり議決する。
平成21年7月29日 神戸第二検察審査会

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